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大阪地方裁判所 平成12年(ワ)5267号 判決 2000年12月01日

原告

森田とし子

右訴訟代理人弁護士

渡辺和恵

村田浩治

河村学

被告

株式会社ワキタ

右代表者代表取締役

脇田冨美男

右訴訟代理人弁護士

津乗宏通

主文

一  本件訴えのうち,本判決確定の日より後に支払期日が到来する賃金の請求を求める部分を却下する。

二  原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。

三  被告は,原告に対し,平成12年3月以降本判決確定の日まで,毎月27日限り,各21万4725円の支払をせよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。

六  この判決は,第三項に限り,仮に執行することができる。

事実

第一申立て

一  原告の請求の趣旨

1  原告が被告の従業員たる地位を有することを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成12年3月以降,毎月27日限り,各21万4725円の支払をせよ。

3  被告は,原告に対し,平成12年7月10日以降,毎年7月10日限り,各7万円の支払をせよ。

4  被告は,原告に対し,平成12年12月10日以降,毎年12月10日限り,各7万円の支払をせよ。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  原告の請求原因

1  当事者

(一) 被告は,昭和24年設立(但し,前身は大正10年に発足),資本金122億0887万5520円の大阪証券取引所第1部上場の株式会社である。

被告は,建設機械・船用機械・工作機械及びその他産業機械の製作・修理・賃貸・販売・リース並びに輸出入等を目的とする企業である。全国に80余の支店ないし営業所を擁している。

(二) 原告は,昭和59年7月,被告に英文タイピストとして雇用され,貿易部(現在は改称して国際営業部)に配属され,以来今日まで同一職務に従事してきた。

2  雇用契約の内容

遅くとも平成2年以降の雇用契約の内容は,勤務日を月曜日から金曜日までとし,勤務時間を午前9時から午後4時までの6時間(休憩時間1時間を除く。)とするもので,期間の定めのない雇用契約であった。

3  解雇

被告は,原告に対し,遅くとも平成12年1月31日までに同年2月末日をもって解雇する旨の意思表示をした(以下「本件解雇」という。)。

被告の原告に対する平成12年1月31日付け解雇通知書は,パートタイマー就業規則第11条7号により解雇するというもので,同条項は,解雇事由として,「会社の業務の都合により,雇用の必要がなくなったとき」と定める。

4  解雇権の濫用

(一) 本件解雇は,正当な理由なくおこなわれたもので,解雇権の濫用であり,無効である。すなわち,本件解雇は,被告の人員削減の必要を理由として行われた整理解雇であるところ,以下のとおり,整理解雇の要件を満たさないものである。

(二) パートタイマー就業規則の適用

原告は,昭和59年7月に雇用されてから数か月後の同年暮ころ,被告に対し,一時的な雇用ではなく,このままずっと働き続けたい旨申し出,被告はこれに時給の減額を条件に承諾し,原告もこれに応じて,以後,終身雇用を予定する期間の定めのない労働者として雇用された。従って,原告は,被告のパートタイマー就業規則の対象者である「特定の期間を定めて雇入れ,特定の就業時間勤務する者」ではなく,右就業規則の適用はない。原告の雇用契約は,期間の定めのある労働者が,順次更新が繰り返され,なし崩し的に雇用が継続された結果,「期間の定めがない雇用契約」へと変質したものではない。

原告は,少なくとも本件解雇時点においては期間の定めのない労働者であり,パートタイマー就業規則の適用を受けない労働者であるから,同就業規則による解雇規定の適用はない。原告は,期間の定めのない労働契約を締結する労働者として,通常の解雇権濫用法理による保護を受けると解すべきである。被告は,原告の解雇については通常労働者の解雇の基準より緩やかに解すべきであると主張するが,原告は正社員(被告の正社員用就業規則に従って雇用され,その適用を受ける従業員をいう。)より勤務時間が1時間30分短いだけであるから,被告の主張は不当である。

(三) 人員削減の必要性

被告は,自己資本比率において,36期(平成7年3月1日から平成8年2月末日まで)の44.3パーセントから40期(平成11年3月1日から平成12年2月末日まで)の73.9パーセントと急上昇させている超優良の状態である。売上高は,数字的には減少しているが,売上総利益は,39期(平成10年3月1日から平成11年2月末日まで)の約104億円と40期の約102億円とを対比すれば,ほぼ横這いである。また,経常利益についても,39期と同じ計算方法によって計算し,一過性の支出というべき貸倒処理を考慮すれば,40期においても39期と遜色のない経常利益を挙げていることになるのである。また,被告は,自社ビル建設にかかる25億円を超える費用を全く無借金のまま拠出しており,株式配当額も,38期(平成9年3月1日から平成10年2月末日まで)までは1株あたり19円,39期は15円,40期に至っても7円50銭の高配当を実現している。経営困難に陥っている会社がこのようなことをできることはあり得ず,被告は十分な余裕をもって経営を行っているのである。被告が行ったという経費削減策は通常の経常効率化を図ったというものに過ぎず,人員整理を行わなければ経営が危ういといった事情はない。

原告の従事してきた国際営業部においても,被告は過去3,4年の間は各1名の営業職の男性を採用しており,業務の拡大を図っており,営業を支える原告の業務量は減るどころか増えることが予測され,貿易書類作成等の業務は存在しており,人員削減の必要性はない。

(四) 解雇回避努力

被告は,人員についても,何ら必要に迫られた積極的な人件費削減策を実施しているとはいえないし,平成9年度には22名,平成10年度には15名(うち1名は非定時採用),平成11年度には8名を採用し,新規従業員の採用を控えているという情況にはない。そして,被告が,解雇回避のために行ったという諸施策は,いずれも収益向上を主目的とする企業ならどこでも行われる業務合理化の域を出ないものであり,簡単に言えば,「無駄をなくし,贅沢をしない」ことにしたというにとどまるのである。

被告は,通常,解雇回避のための努力として行われる,希望退職者募集,退職勧奨,配転,出向等の打診を全く行っておらず,また,原告に有利な退職条件を提示するなどもせず,原告の首を切ったのであり,これで被告が解雇回避の努力を尽くしたということはできない。

なお,被告は,原告について,主婦で高齢でもあるから転籍,出向,派遣等の雇用作出策も取り得ないなどと,原告が女性で高齢で主婦であることを理由に解雇回避努力を軽減してよいとするようであるが,このような取扱いは雇用機会均等法8条に反する違法なものというべきであり,男性職員であれば検討したであろう解雇回避策を,女性であるがゆえに検討していないという点でも被告の解雇回避努力が尽くされていないことは明白である。

(五) 人選の合理性

原告は,15年7か月にわたって勤務を続けてきた者であり,所定労働時間も通常の労働者に比し若干短いに過ぎず,かつ,雇入れ当初には被告との間で終身雇用を約束していたから,他の通常労働者を何ら顧慮することなく原告を解雇の対象と選んだことをもって人選が合理的だったとは到底いえないというべきである。そして,国際営業部においてCPTによる書類作成業務も現存しており,この業務については原告が専属的に従来より行ってきたのであるから,もし仮に余剰人員が出るのであれば,新たにCPTの操作に従事するようになった労働者が対象となるのが本来であると解される。なお,被告は原告の賃金が高いことも人選の理由にするようであるが,原告がパートタイマー就業規則の適用のない労働者で,かつ,15年7か月にわたって継続勤務してきた期間の定めのない労働者であることからすれば,本来のパートタイマーとの比較において賃金を云々するのは筋違いというほかない。したがって,被告の本件解雇は人選の合理性という点でも整理解雇の要件を満たしていないというべきである。

(六) 手続の合理性

原告は,平成11年12月16日,国際営業部長氏原伸治と部長代理開発正典から退職を求められたが,これは,一方的に被告の事情と被告の意向を伝えたのみであり,解雇のやむを得ない理由,転勤等解雇回避措置に関する意向聴取,考える機会を与えて後に質問や意見を受け付ける等原告に解雇を納得させるための諸方策を何らとっていない。したがって,被告の行った本件解雇における手続は合理性をも有してはいない。

5  賃金

(一) 原告の賃金は,1時間当たり1800円であり,平成11年度は年収271万6700円で,うち賞与は夏期7万円,冬期7万円であった。支払は,毎月20日締め,27日払いであった。そこで,平均月収は年収から右賞与合計14万円を差し引いた257万6700円を12等分した21万4725円となる。

(二) 原告は,年2回夏・冬の賞与を受けてきた。賞与は,毎年正社員の賞与支給日である7月10日,12月10日に支払われる契約である。賞与の支給は恩典ではない。原告は労働時間は正職(ママ)員より短いものの,賞与は平成6年以前も支給されており,実績として年間合計35万円あるいは30万円と支給されてきたこともあり,第1回目の支給の昭和63年を除いては年額金14万円を下ったことはなく,平均賞与は各期7万円を下らない。

6  請求

よって,原告は被告に対し,原告が被告の従業員たる地位を有することの確認並びに平成12年3月以降,毎月27日限り各21万4725円,平成12年7月10日以降,毎年7月10日限り各7万円,平成12年12月10日以降,毎年12月10日限り各7万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否並びに主張

1  請求原因1ないし3の各事実は認める。

2(一)  同4は争う。本件解雇は,被告の「パートタイマー就業規則」に則り,その第11条(解雇)の7号の規定「会社の業務の都合により,雇用の必要がなくなったとき」に該当することを理由とするものであるところ,原告は,パートタイム労働者であって右就業規則の右条項の適用を受ける者であり,少なくとも,その準用を受ける者であるところ,近時の不況下における業務量の減少等から原告が余剰人員となっていたもので,原告には右条項該当性があり,その適用について信義に反する点はなく,被告において解雇回避努力や説明義務も尽くしているから,本件解雇を解雇権の濫用とする理由はない。以下に詳述する。

(1) パートタイマー就業規則の適用

原告は,昭和59年7月当時,原告が被告に雇用された段階では,原告は,被告のパートタイマー就業規則2条の「特定の期間を定めて雇入れ,特定の就業時間勤務する者」として雇用された者であり,その後,右就業規則9条の「雇用期間は2か月以内とする。但し,会社は業務の必要に応じ契約を更新することがある。更新の場合の契約期間は6か月以内とする」との更新規定により更新が繰り返され,なし崩し的に雇用が継続された結果,期間の定めがない雇用契約に変質したもので,右変質後の原告の身分は,被告のパートタイマー就業規則2条の前記定義に該当しなくなったとはいえ,「特定の就業時間勤務する者」であり,「期間の定めのないパートタイマー」には相違なく,原告には,性質が許す限り,右就業規則が適用されるものである。

なお,仮に,原告を被告の正社員に準ずるとしても,正社員の就業規則についても,通常解雇事由として,「止むを得ない業務上の都合によるとき」,「その他止むを得ない事由があるとき」と規定しており,右は,主として「会社の業務の都合上,雇用の必要がなくなったとき」や「会社業務の都合上,雇用を継続し得なくなった」場合をいうものと解されるので,解雇の要件は同じことに帰する。

(2) 同規則第11条7号該当性

昨今の経済界は,いわゆるバブル経済の崩壊に原因する不況下にあって,経営環境の構造的変化に対応して事業内容及び企業組織を組立て直すといういわゆる「リストラ」の真直中にあり,その側面としては,その対策としての経費及び人員の削減策が問題となっている。被告は,建設機械類の販売及びリース(賃貸)を主目的とする企業であることから,土木・建築業界の不況のため,ここ数期の業績は減収,減益であり,その推移は大幅に悪化の現況にある。為に,被告は,経費及び人員の削減策を取る必要性に迫られ,事業の効率化や多角化に努力を傾注する等経営判断上必要な諸施策を実行中である。特に,リストラにおける雇用調整は,今日の産業界では,従来通りに正社員の雇用をできる限り継続し,その整理解雇は原則として行わない手法で遂行している企業が多く,特に大企業にあっては,雇用の保障が労使関係の安定と従業員の献身の基礎であることを意識し,正社員の整理解雇を行うことは困難な情況にあり,被告にあっても正しくかかる情況に直面している。

本件解雇は,被告の右情況下において,人員削減策の一貫として,被告がこれを断行したものである。被告は,いまだ赤字経営にはなっていないが,昨今の大幅な減収・減益の中で事業の転換・再構築を図るという経営判断の下に不要人員削減として本件解雇を行ったものである。

被告における売上高やその利益の情況は,減収,減益の傾向にあって,38期と39期で比較するときは,売上高で22.5パーセントの減少,利益は半減の情況にあり,40期にあっては,更なる大幅な減収,減益の決算である。すなわち,40期にあっては,被告の努力にも拘らず,売上高は前期比で137億0600万円(17.5パーセント)減であり,営業利益は前期比86.7パーセント減の2億1000万円,経常利益は同じく63.5パーセント減の9億2500万円,当期利益は同様に83.5パーセント減の2億4800万円となり,前期に引続き大幅な減益となった。従業員の情況にあっても,39期は,前期比32名減(男性15名,女性17名)の合計580名であったところ,40期では,前期比39名減少(男性28名,女性11名)で合計541名となり,正社員についてもいわゆるリストラを実施中である。なお,被告は,本年3月からは本社機能を賃借ビルから自社ビルに移転したが,永年の悲願達成であり,過去の利益蓄積の結果でしかない。

被告は,国際営業部門につき,営業部門を強化したものの,その効果が得られず,営業実績の低下の現況にあり,為に書類作成業務は減少傾向にあって,ここ昨今の営業不振のため,業務量は減少こそすれ,増加の見込予測はない。

被告の国際営業部の現組織と人員配置の情況は,部統括者として取締役部長氏原伸治の下に,部長代理開発正典ほか男子正社員6名(営業担当)と女子事務職正社員2名及びパートタイム従業員である原告の総勢11名であるところ,海外取引用書類の作成にあっては,ここ10年来は,英文タイプの必要がなくなり,原告の手をわずらわすことなく,右営業担当社員や事務女子社員により,パソコン(CPT)で容易に作成することが可能となり,かつ前記業績低下によりその作成頻度も減少の結果,原告が余剰人員化したものであった。

要するに,本件解雇理由は,原告は,パートタイム労働者であり,英文タイプの専門職として書類作成事務に従事してきたところ,ここ10年来は,パソコン(CPT)を使用してこれら書類作成に従事するも,外国為替及び外国貿易法の改正に伴う海外取引業務が簡素化されたことやコンピューター導入により初心者でも貿易関係書類の作成が可能となり,英文タイプの必要が無くなったこと,加えて国際営業部の業績不振による原告担当業務が減少したことにより原告が余剰人員となったことから,被告が原告を雇用する必要がなくなったことである。

(3) 信義則適合性

本件解雇の場合における原告への右就業規則の適用には,被告につき,何らの不自然さや非合理性はなく,被告の恣意的判断や不純な私情及び動機は存在しないが故に,信義則違反は存在しない。すなわち,右適用の判断の過程において,被告には不自然なものはなく,また,適用を考慮するについて,被告には明らかに考慮すべきでないことを考慮に入れているとか,当然考慮に入れるべきことを考慮から落しているとかの事情はない。

(4) 解雇回避努力の履践

被告は,次のとおり,解雇回避の為の努力を尽した。

ア 非要員関係

被告は,ここ数期の減収減益の中,商社活動の拡大,新規事業部門の開発,新規取扱商品の開拓等,全社一丸となって増収増益に日夜努力しており,また,経費支出「ゼロ運動」や経費「20パーセント削減運動」を実施するなど経費削減を強力に推進中である。被告は,平成3年3月,本社自社ビルを竣工させ,同月から新社屋において営業を開始したが,これに関する一切の祝賀行事を行わないなど経費節約を徹底している。

イ 要員関係

被告は,前記商社活動の拡大,新規事業部門の開発,新規取扱商品の開拓等に伴い,必要人員の確保を図りつつ,従業員の自然減に努め,最低限の補充をするも,新規の定期採用を手控え,現従業員の雇用確保に努め,他方で,不急不振部門の縮小,組織改正,店舗閉鎖等を行っている。また,残業規制,賞与のカットにも努め,雇用の維持を優先させるところである。特に,原告が関係する本社営業第一部兼国際営業部にあっては,組織改正を行う他,営業拡大策としてワキタ・アメリカを米国に設立して稼働させ,貿易業務の維持,発展を画策するところであるが,効果は今一つである。

ウ 役員関係

役員については,役員報酬,賞与のカットを行い,また,役員数も削減している。

エ 中高齢者に対する退職勧奨

被告は,ここ数期中,正社員で年齢40歳以上で勤続10年以上の者につき,特に,勤務情況不良の者(欠勤がちの者)と営業成績不良の者(問題ある取引行為を為し,会社に多額の損害を被らせた者を含む。)に対し,会社業績が不良であることを説明のうえ,個々に退職勧奨を行っている。

オ 本件原告の特殊性について

本件原告の場合,従前の業務内容や本件原告の特殊性について被告の営業内容等に鑑み(特に,英文タイプや貿易事務関係の書類作成業務は,被告方では唯一の部署が右国際営業部である。),他部署への適応能力上,配置転換は困難であって,原告がパート勤務の主婦であり高齢の部類に属する女性であり,かつ,被告の事業内容と事業所配置等の関係上(被告には然るべき受入れ部門がない。),転籍,出向,派遣の雇用作出策を取ることも困難である。

カ 解雇回避措置について

以上の被告の諸施策や原告の特性に照らすときは,被告は,希望退職者の募集やあからさまな退職勧奨を行うが如き積極的な雇用削減策は取らないものの,一応世間並みの,特に他の大企業並みのリストラ策の一環としての人員削減策を取る中にあって,一応の解雇回避策を取るものであって,解雇回避努力を尽くしたということができる。解雇回避の努力については,解雇を実施するに先立って企業が具体策として何を選ぶかは,企業の責任で決定し,実施できるものや効果のあるものについて実施し,実行すれば足りるものであって,経営に責任を持たない裁判所が,使用者たる企業に代って判断はできかねるとする態度が望ましく,かつ妥当である。軽々に,先に希望退職者を募り,配置転換を打診する等の解雇回避のための措置を取ることが要請されるとするが如きは,ビジネス・ジャッジメント・ルールの観点から大いに問題であり,好ましい裁判所の姿勢ではない。

なお,希望退職者募集は,従業員の士気にも悪影響を及ぼし,ひいては企業の信用にも影響するので,現時点では被告はこれを採用しない。また,同様の理由で,退職勧奨も採用するところでない。パートタイム従業員を解雇するに際し,正社員に対して希望退職を募ったり,退職勧奨を為すべき理由はない。原告への配置転換の打診については,被告の業務内容や原告の性別・年齢・従前の業務内容,他業務への適正等の特性からして,いわゆる配転を取り得ない。更には,被告の営業内容,企業規模,原告が主婦でパートタイム労働者であるとの立場等々から,転勤,出向,移籍等を選択する余地もない。

(5) 説明義務の履践

被告は,平成11年12月16日,本件解雇に当り,氏原伸治及び開発正典の両名において,原告に対し,会社の情況等を説明し,右解雇への理解と賛同を求めたところであって,説明・協議を尽した。その際,原告の要望した退職一時金の支給等を検討,協議を考慮中,本件紛争に至ったものであった。

(二)  なお,本件解雇は,前記リストラの一貫として,未だ赤字経営にはなっていないが,減益傾向の中で事業の転換・再構築を図るため,余剰人員化した原告を解雇したものであって,経営不振を理由として行われる人員削減の手段である整理解雇の範疇に入るものか疑問であるが,仮に,本件解雇が整理解雇の範疇に入るとしても,次のとおり,本件解雇を解雇権の濫用とする理由はない。

(1) 正社員の整理解雇とは異なること

原告は,期間の定めのなきパートタイム労働者であったから,非正社員の雇止めに類似する場合であり,人員整理にあたっては,正社員の解雇に先立って対象とすることが許され,解雇理由も正社員の場合に比して相当軽減されるというべきであり,正社員の整理解雇と同列には論じることはできないものである。

(2) 裁判所の解雇要件判断に対する態度

裁判所は,経営に責任を持たないから,その独自の立場から使用者はこうすべきであると決めて,それに合致するか否かを検討するのは妥当ではない。裁判所の態度としては,使用者の判断過程をあとづけて,その判断過程に不自然なところがなければ使用者の判断を尊重し,不自然なところがあれば使用者の考えを否定するとの態度が正しいものである。

(3) 整理解雇の要件充足

被告に人員整理の必要性があり,解雇回避努力及び説明義務などの手続を履践したことは前述のとおりである。そして,解雇対象に原告を選定したことについても,次のとおり,合理性を有する。

原告は,通常の従業員とは労働条件が異なるいわゆるパートタイム労働者であるから,通常の従業員と同程度の雇用確保の努力が要請されるといい難いものであって,国際営業部で余剰人員化している原告を解雇の対象に選定することは不当ではない。

3  同5(一)の事実は認める。同5(二)の事実のうち,被告が原告に対し,賞与名下に,従前から年額30万円から14万円を給付してきたことは認めるが,その余の事実は否認する。賞与については就業規則にも規定はなく,恩恵的に給付して労に報いていたものである。

理由

一  原告の将来請求について

原告は,判決確定日より後の将来の賃金について支払を求めるが,原告に雇用契約上の地立があると確認された場合においても被告がその就労を拒否するとまではいえず,その場合,賃金の具体的な額は労務提供の有無によって影響を受けることになるから,判決確定後の賃金請求部分については訴えの利益がないというべきである。よって,本件訴えのうち,判決確定後の将来の賃金の支払を請求する部分は,これを却下する。

二  当事者並びに原告の解雇

請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

三  解雇権の濫用について

1  被告は,原告を,パートタイマー就業規則第11条7号により解雇したと主張する。右パートタイマー就業規則は,その2条に,パートタイマーを定義して,「特定の期間を定めて雇い入れ,特定の就業時間勤務する者をいう」と規定する(<証拠略>)。この定義によれば,期間の定めなく雇用された者である原告がパートタイマー就業規則にいうパートタイマーに該当しないことは明らかであり,パートタイマー就業規則が直接適用されるものではない。他方,原告は,正社員の就業規則にいう従業員に該当しないことも,その就業規則から明白である(<証拠略>)。被告には,就業規則としては,正社員用とパートタイマー用の2種類しかないから,原告に適用すべき就業規則がないこととなるが,だからといって解雇が不可能というものではないから,結局,どちらが準用ないし類推適用されるかという問題になるが,原告は特定の就業時間勤務する労働者である上,原告の主張によっても,雇用後数か月後,一時的な雇用ではなく,このままずっと働き続けたい旨申し出て,被告がこれに応じた結果,期間の定めのない雇用契約となったというものであるから,当初は,一時的な雇用であったわけで,パートタイマー就業規則の適用があったと考えられ,その後,期間の定めのない労働者となったが,労働条件中,変更した主な部分は,期間の定めだけであるから,基本的には,パートタイマー就業規則によるものであろうし,解雇の点については,いずれの就業規則にも解雇事由を掲げており,その表現は異なるが,準用ないし類推である以上,原告の労働条件等を考慮して解釈せざるを得ないものであり,解雇は社会通念に従った合理的なものでしか許されないのであるから,いずれの就業規則を適用するかによっても結論が異なるものともいえず,原告にパートタイマー就業規則を適用することによって不合理が生じるものではないから,パートタイマー就業規則を適用するという被告の意図を否定する理由はない。

2  そこで,原告に,パートタイマー就業規則第11条7号該当事由があるかどうかが問題となるが,同条項「会社の業務の都合により,雇用の必要がなくなったとき」の解釈としても,原告が右就業規則にいう期間の定めのある労働者ではなく,期間の定めのない雇用契約を締結した労働者であることを考慮してその要件を判断すべきであり,余剰人員となれば,直ちに解雇が可能といえるものではない。解雇が,賃金によって生計を立てる労働者の生活に重大な影響を与えるものであることからすれば,これは社会通念に従った合理的なものでなければならず,右就業規則の解釈としても,かかる要件が要求されるものと解される。

被告は,本件を整理解雇ではない旨主張するところ,解雇に整理解雇という特殊な要件を必要とする解雇の類型があるわけではなく,整理解雇に当たるか否かという議論は無意味であるが,被告の主張する解雇の事由は,余剰人員となったことを理由とするものであって,余剰人員となったというだけで解雇が可能なわけではなく,これが解雇権の行使として,社会通念に沿う合理的なものであるかどうかの判断を要し,その判断のためには,人員整理の必要性,人選の合理性,解雇回避努力の履践,説明義務の履践などは考慮要素として重要なものというべきである。

3  そこで,本件解雇にパートタイマー就業規則規定の解雇事由があるか否か,解雇権の行使が濫用に当たるか否かを,以下に検討するに,(証拠・人証略),原告本人尋問の結果によれば,次のとおり認めることができる。

(一)  原告は,昭和56年春から,人材派遣会社からの派遣労働者として被告に勤務し,同年11月,パートタイマーとして被告に直接雇用され,昭和57年9月に出産のため退職した経歴がある。そして,原告は,昭和59年7月,被告の英文タイピストのパートタイマー募集に応じて,再度雇用されたが,そのときの賃金は,時間給1900円であった。その3,4か月後,原告から長期に務(ママ)めたいとの希望が出され,被告は,時間給を1700円に下げることを条件にこれを承諾し,原告もこれを承諾して,そのころ,勤務時間を6時間,時間給を1700円とする期間の定めのない雇用契約が成立した。そして,その後,原告は,本件解雇まで約15年間継続して勤務してきた。

(二)  被告の営業における最近の数期の売上高やその利益の情況は,減収,減益の傾向にあって,38期と39期で比較すると,売上高で22.5パーセントの減少,経常利益は半減の情況にあり,40期の平成11年8月31日までの中間報告によれば,売上高,経常利益とも39期の中間期よりさらに減少の傾向にある。39期及び40期に経常利益が大きく減少したのは,売上高の減少に加え,近時の経営環境悪化の中で,大口不良債権が生じたり,関係取引先が倒産したことなどから多額の貸倒処理を行ったことによる。40期においては,対前期比で約15億円増の約18億5865万円の貸倒損失を計上している。

しかし,経常利益はいわゆる赤字にまではなっていないし,39期において,被告の自己資本比率は64パーセント,純資産額約591億円,総資産額約924億円であり,また,平成12年3月には,約25億円を超える費用を拠出して,念願の自社ビルを竣工し,移転しており,株式配当も,1株当たり,39期は15円,40期は7円50銭の配当を実現している。

(三)  被告は,従業員について,平成9年度には22名採用していたのを,平成10年度は14名,平成11年度は8名と,採用人員を少なくし,平成10年度は,前期比32名減の合計580名,平成11年度は,前期比39名減の合計541名と,正社員を減少させている。ただし,正社員,パートタイム労働者のいずれについても,希望退職者の募集や整理解雇の前提としての退職勧奨は行っていない。

また,被告は,売上げ減少の中で,経費支出ゼロ運動や20パーセント削減運動を行って,経費節減に務(ママ)め,自社ビル移転についても,一切の祝賀行事を行わなかった。また,被告は,経費節減のため,不急不振部門の縮小,組織改正,店舗閉鎖を実施し,従業員に対する残業規制や賞与のカットを行い,取締役の報酬減額や取締役の減員を行った。

(四)  被告の国際営業部は,取締役である国際営業部長氏原伸治の下に,部長代理開発正典ほか男子正社員6名(営業担当),女子事務職正社員2名及び原告の総勢11名であった。原告は,英文タイピストとして雇用された者で,英文の書簡や見積書などの海外取引用書類を英文タイプライターを用いて作成する業務を行ってきたが,ここ10年来は,海外取引業務が簡素化されたことやパソコン(CPT)導入によって,これらの書類を初心者でも容易に作成することが可能となり,英文タイプの必要がなくなり,専門的な技能を必要としなくなって,営業担当社員や事務女子社員においても,書類の作成が可能となってきた。原告は,パソコンの導入後は,これによって海外取引用書類の作成を行ってきたが,その内容は,定型的補助事務といってよい。そして,昨今の営業不振やEメールの普及などのため,書類作成事務は減少し,専門的に文書作成を担当する従業員を置く必要性は必ずしもなくなり,また,他の部署においても英文タイピストの必要はなく,英文タイピストたる原告は余剰人員化した。

(五)  被告におけるパートタイム労働者の雇用情況は,平成11年12月15日現在で,98名であり,女性59名,男性39名の内訳構成であったが,男性は,全員が事務職ではなく,近畿圏内における被告の本社,営業所等において,原告以外で一般事務に従事するパートタイム従業員は,個々の事業所における一般事務,具体的には,レンタル業務での貸出事務,物品の販売事務,請求書・領収書の作成等に係る一般事務担当の者で,滋賀工場に3名,大阪支店に1名と福知山出張所に1名が存在したのみであった。ただし,大阪支店のパートタイム労働者は,平成11年11月に雇用された者である(ただし,時給は850円)。また,平成12年1月には,京都出張所において一般事務担当の女子パートタイム労働者1名が雇用されている(ただし,時給850円)。

(六)  被告は,原告が国際事業部において余剰人員化しているとの判断から解雇を決定したが,配置転換や出向は提示せず,事前に退職勧奨は行わず,平成10年12月16日,原告に対し,業績不振及び業務量の減少を理由に平成11年2月末日付けで解雇する旨を告げた。

以上に鑑みるに,本件解雇は,被告の主張するように,経営不振を理由として行われたものではなく,いわゆるリストラの一貫として,被告の減益傾向の中で事業の転換・再構築を図るため,余剰人員化した原告を解雇したものであるところ,確かに,被告は,売上げ,経常利益の減少の中にあり,いわゆるリストラを行うこと自体は,企業としての合理的判断として相当なものであったといい得るし,また,原告が,英文タイピストとして雇用されたのに,その専門性を失い,業務量の減少の中で,余剰人員化していたことも認めることができる。しかしながら,解雇は賃金によって生計を維持する労働者にとって重大な影響を与えるものであるところ,余剰人員化したことについては,労働者に何らの責任もないのであるから,余剰人員化したというだけで解雇できるものではない。原告は,パートタイム労働者であるが,その勤務時間は,正社員より1時間30分短いだけであり,期間の定めのない雇用契約を締結した労働者であり,かつ,本件解雇時までに既に15年以上を勤務していた者であって,雇用継続に対する期待度は高く,雇用関係の継続に対する期待,信頼について正社員に比べて格段に異なるものがあるとはいえず,むしろこれに近いものがある。そして,原告が国際事業部においては余剰人員化し,他部署において,英文タイピストの必要性がなかったことは認められるものも,原告は,相当以前から,一般補助事務要員としての業務を行っていたものであって,一般補助事務要員としてであれば他部署に配置することも可能であったということはできる。正社員については,いわゆるリストラ中であるというものの,整理解雇やこれを視野に置いた退職勧奨が行われているわけではなく,被告としてもそこまでの必要性があるとは判断していないわけであるし,その後,被告は,パートタイム労働者を雇用しており,また,解雇回避のためには,原告をフルタイム労働者に職種変換することも考えられてよく,配転の可能性がなかったとはいえない。原告の賃金は,新規雇用のパートタイム労働者からみれば,相当に高額であるが,原告と同程度の勤務歴を持つ正社員の賃金に比べれば,それほど高額とはいえず,解雇回避の手段としての出費という意味では,これを捻出することができないほどに解雇の必要性があったとはいえない。しかるに,被告は,原告に対し,配置転換の提示をしていないし,退職勧奨も行っていないのであって,原告が営業不振の中にあって,いわゆるリストラを実施中であることを考慮しても,解雇回避の努力を尽くしたとはいい難いものである。なお,被告は,解雇回避の努力として何を選ぶかは,企業の責任で決定し,実施できるものや効果のあるものについて実施し,実行すれば足りるものであって,経営に責任を持たない裁判所が,使用者たる企業に代って判断はすべきでない旨主張するが,採用できないものである。以上によれば,原告の解雇は,社会通念に反するものといわなければならず,本件解雇は,パートタイマー就業規則11条に規定する解雇事由に該当しないものであり,少なくとも解雇権の濫用として無効なものである。

四  賃金について

原告の勤務が週5日,1日6時間であり,賃金が,1時間当たり1800円であること,平成11年度における賞与を除く賃金の平均月額が21万4725円であることは当事者間に争いがない。そうであれば,原告の月額賃金請求は理由がある。

五  賞与の請求について

被告が原告に対し,賞与名下に,従前から年額30万円から14万円を給付してきたことは当事者間に争いがない。しかしながら,(人証略)の証言によれば,原告に対する賞与は,労働組合との合意や被告における正社員に対する支給決定とは別に,その都度,所属長の上申によって個別に支給及び支給額が決定されてきたことを認めることができる。これによれば,原告に賞与について具体的な請求権が発生するためには,被告による個別の支給のための決定を必要とするというべきところ,右決定がされた事実は認められないから,原告には賞与について請求権はないといわなければならない。

六  結語

以上により,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 松本哲泓)

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